
猫がお尻を頻繁になめたり、床にこすりつけたりしていると、親としては心配になりますよね。
そんなときに「肛門嚢炎かもしれない」と知ると、自然に治るのではないか、病院に行かずに様子を見てもいいのではないかと考える飼い主さんも多いのではないでしょうか。
この記事では、猫の肛門嚢炎が自然治癒するのかどうか、放置したときのリスク、正しい治療法についてお答えします。
読み終わったあとは、愛猫の健康を守るために今すぐできることが明確になるはずです。
猫の肛門嚢炎は自然治癒しない—早期受診が重要です

結論から申し上げます。
猫の肛門嚢炎は基本的に自然治癒しません。
一時的に症状が落ち着いたように見えることはありますが、それは治癒したわけではなく、むしろ悪化の前触れかもしれません。
放置すると破裂や膿瘍形成といった深刻な状態に進行し、最終的には外科手術が必要になることもあります。
「少しおかしいな」と感じたら、できるだけ早く動物病院に相談することが、愛猫の健康を守る最善の方法なのです。
肛門嚢炎が自然治癒しない理由
肛門嚢炎とは、そもそもどんな病気なのか
猫の肛門には、左右に1つずつ「肛門嚢」という小さな袋があります。
ここには独特の臭いを持つ分泌液が溜まっており、本来は排便時に便の圧力で自然に排出されるようになっています。
しかし、便秘や下痢、肥満、運動不足といった要因によって、この分泌液がうまく排出されず溜まってしまうことがあります。
分泌液が肛門嚢内に長時間留まると、細菌が繁殖して炎症が起こり、痛みや腫れが生じる—これが肛門嚢炎です。
炎症は感染症に進行する
肛門嚢炎は単なる「詰まり」ではなく、細菌感染によって引き起こされる炎症です。
炎症がある状態では、身体の免疫機能が常に働いており、放置すればするほど感染は進行します。
猫の身体は、確かに軽い怪我などは自分で治す力を持っています。
しかし、肛門嚢内のような限定的で暗い環境での細菌感染は、自己治癒能力では対抗しきれないのです。
むしろ、放置することで炎症が深まり、膿が溜まっていく一方なのです。
破裂後の「治ったように見える」という落とし穴
肛門嚢炎の症状が進むと、炎症部分の皮膚が薄くなり、やがて破裂してしまいます。
そのとき、溜まっていた膿が肛門周囲の皮膚を通じて外に流れ出ます。
飼い主さんが気付くのは、その後です。
お尻からガーゼに血が付くようになり、数日後には症状が落ち着いて、痛みを示す行動が減ってきます。
「あ、勝手に治った」と考える飼い主さんも多いのですが、これは大きな勘違いです。
実は、破裂によって膿が外に出ただけで、肛門嚢内の炎症や感染は依然として存在しています。
さらに悪いことに、破裂した傷口から新たな細菌が侵入したり、肛門嚢の内部が不衛生な状態のままになったりします。
その結果、ほぼすべての猫が何度も再発を繰り返すことになるのです。
放置による深刻な合併症
肛門嚢炎を放置し続けると、以下のような段階的な悪化が起こります。
- 初期段階:肛門周囲の腫れ、赤み、痛み
- 進行段階:膿瘍形成(膿がポケット状に溜まる)、皮膚の破裂
- 重症段階:大きな皮膚欠損、周囲組織への感染拡大
- 末期段階:外科的な肛門嚢摘出手術が必要
特に重症段階では、動物病院での治療の選択肢が限定され、麻酔下での外科手術が避けられません。
これは猫にとって大きな負担であり、予後も初期治療よりも悪くなる傾向があります。
肛門嚢炎の主な症状—こんなサインが出ていたら要注意
行動で見分ける症状
肛門嚢炎の猫は、特徴的な行動を示します。
これらのサインを見逃さないことが、早期発見のカギになります。
- お尻を頻繁に舐める—正常な猫も舐めることはありますが、肛門嚢炎の猫は執拗に舐め続けます
- 床にお尻をこすりつける—通称「スコーティング」。痛みやかゆみを和らげようとしている行動です
- 排便時に嫌がる、怒る—排便が痛いため、トイレを避けるようになります
- お尻周りを触られるのを極度に嫌がる—その部分に痛みがあることの明確なサイン
身体的な症状
見た目や臭いの変化も重要な診断材料です。
- 肛門周囲の腫れと赤み—左右の肛門嚢に対応する位置(肛門の左右)に見られます
- 肛門からの膿や血の排出—特に破裂している場合、ガーゼや肛門周りに付着します
- 肛門周辺の悪臭—通常のうんちの臭いとは異なる、腐敗したような臭いがします
- 元気や食欲の低下—炎症が進んで全身症状が出ている証拠です
- 発熱—感染が進むと、体温上昇が見られることもあります
進行段階による症状の変化
肛門嚢炎は進行するにつれて症状が変わってきます。
早めに気づくためには、この段階的な変化を知ることも大切です。
軽度(初期)
この段階ではお尻を気にする程度の行動が見られ、明らかな腫れは目立ちません。
飼い主さんが「少し気になるな」という段階です。
中程度
肛門周囲に明らかな腫れと赤みが出現します。
スコーティングやお尻舐めが顕著になり、触ると猫が嫌がる反応を示します。
重度(破裂)
皮膚が破れて膿が流れ出ます。
一時的に痛みが和らぐため、飼い主さんは「治った」と勘違いしやすい時期です。
動物病院での治療法—段階に応じた対応
軽度から中程度:保存的治療で対応
肛門腺絞りと内部洗浄
獣医師が肛門嚢を外部から圧迫して、溜まった分泌物や膿を絞り出す処置です。
これにより、肛門嚢内の圧力が低下し、痛みが大幅に軽くなります。
さらに、カテーテルを用いて肛門嚢内を生理食塩水で洗浄し、膿や刺激物を完全に除去します。
その後、消毒薬やステロイド、抗菌薬を肛門嚢内に直接注入することで、再度溜まるのを防ぎます。
全身投薬
抗生物質により細菌感染に対抗し、抗炎症薬で炎症を抑制します。
痛みが強い場合は、痛み止めも処方されます。
これらの薬は通常、5~10日間投薬される場合が多いです。
中程度から重度:外科的処置が加わる
破裂部位の処置
肛門周囲の皮膚が破裂している場合、まず毛刈りを行って処置部位を明確にします。
その後、破裂部周囲を丁寧に洗浄・消毒し、膿を完全に除去します。
裂傷が小さければ自然治癒を見守る場合もありますが、大きな裂傷の場合は麻酔下で縫合されることもあります。
肛門嚢摘出手術
慢性的に肛門嚢炎を繰り返す猫の場合、根本的な解決策として肛門嚢そのものを外科的に摘出する手術が選択されることもあります。
これは麻酔下での全身手術であり、一定のリスクを伴いますが、再発を根本的に防ぐことができます。
手術後は、排尿や排便に若干の変化が生じる可能性があるため、事前に獣医師とよく相談することが重要です。
肛門嚢炎の予後と再発防止策
早期治療での予後は良好
肛門嚢炎は、症状が出てから早期に動物病院で治療を受けた場合、予後は非常に良好です。
多くの猫は、肛門腺絞りと数日間の投薬で回復します。
復帰後も、定期的な観察と必要に応じた予防処置で、再発を大幅に減らすことができます。
猫における肛門嚢炎の発生頻度
ところで、「猫の肛門嚢炎って、そもそもどのくらい起こるものなの?」という疑問を持つ飼い主さんも多いかもしれません。
実は、猫の肛門嚢炎は犬に比べると発生頻度が低く、比較的まれな病気とされています。
ただし「ないわけではない」という点が重要です。
特に高齢猫や肥満猫では発生リスクが高まります。
自宅でできる予防と再発防止
治療後の再発を防ぐために、飼い主さんが自宅で心がけられることがあります。
重要なのは、これらは「治療の代替ではなく、治療後の補助」という位置づけです。
排便を正常に保つ
肛門嚢内の分泌液は、排便時の便の圧力で自然に排出されます。
したがって、しっかりした形の便を排出することが、肛門嚢炎の予防に直結します。
- 食物繊維とタンパク質のバランスが取れたフードを選ぶ
- 十分な水分摂取を促す(ウェットフードの活用、給水器の工夫)
- フードの急激な変更を避ける
体重管理と運動
肥満や運動不足は、腸の蠕動運動を低下させ、便秘につながります。
適切な体重と適度な活動レベルを保つことで、排泄機能が正常に働きやすくなります。
お尻周りの定期的な観察
毎日、愛猫のお尻周りを優しく観察する習慣をつけてください。
腫れ、赤み、においの変化、スコーティング行動などがあれば、すぐに獣医師に相談することが再発の早期発見につながります。
自宅での肛門腺絞りについて
「自分で肛門腺絞りをすることはできるか?」という質問を受けることがあります。
技術的には可能ですが、猫は嫌がりやすく、誤った方法で行うと肛門嚢や周囲の組織を傷つけるリスクがあります。
必要性についても、獣医師の判断によって異なります。
健康な状態であれば、排便によって自動的に排出されるため、定期的な絞りは不要です。
もし肛門嚢炎の履歴がある場合は、獣医師に相談して、実際に必要かどうか、やり方について指導を受けることをお勧めします。
治療を迷っている方へ:放置のコストと早期治療のメリット
具体例1:初期段階での受診
5歳のオス猫、太郎くんの例です。
3日前からお尻を頻繁に舐めるようになり、飼い主さんは「何かおかしい」と感じ、すぐに動物病院に連れていきました。
診察の結果、肛門嚢炎の初期段階という診断でした。
その日のうちに肛門腺絞りと洗浄を行い、抗生物質と抗炎症薬を処方されました。
治療費は約8,000~12,000円で、1週間の投薬後、症状は完全に消失しました。
その後、食物繊維の多いフードに変更して経過観察をしたところ、半年経った今でも再発していません。
具体例2:放置から悪化への道
3歳のメス猫、花子ちゃんの例です。
お尻を気にする行動が見られても、「そのうち治るだろう」と様子を見ていました。
3週間後、肛門周囲から膿と血が出始め、ようやく動物病院に連れていきました。
この段階では、肛門嚢が破裂し、周囲に膿瘍が形成されていました。
治療には肛門腺絞り、洗浄、消毒に加えて、広範囲の抗生物質投与が必要になりました。
治療費は25,000~30,000円に上り、さらに破裂部位が治るまで2週間以上を要しました。
その後も2ヶ月ごとに再発を繰り返し、最終的には肛門嚢摘出手術(約80,000~100,000円)が検討されるまでになってしまいました。
具体例3:慢性化から手術へ
10歳のシニア猫、吾郎くんの例です。
過去に肛門嚢炎になったことはありましたが、治ったので気にしていませんでした。
その後、年2~3回の頻度で肛門嚢炎を繰り返すようになりました。
毎回、肛門腺絞りと投薬で対応していましたが、間隔が次第に短くなっていきました。
獣医師は「再発が頻繁すぎる。シニア猫ですが、根本的な解決のため肛門嚢摘出手術を検討した方がいい」とアドバイスしました。
結果として手術を決断し、麻酔下での摘出手術を受けました。
費用は90,000円を超え、高齢猫の麻酔リスクもありましたが、術後の経過は良好で、再発がなくなりました。
この例から学べるのは、初期段階での適切な対応が、その後の猫のQOL(生活の質)を大きく左右するということです。
肛門嚢炎で「様子見」をしてはいけない理由—まとめ
ここまでの内容をまとめます。
- 猫の肛門嚢炎は自然治癒しません。細菌感染による炎症であり、放置すると進行する一方です。
- 一時的に症状が落ち着いても、それは治癒ではなく悪化の前兆です。特に破裂後は再発リスクが非常に高まります。
- 早期に動物病院で治療を受けた場合、予後は良好です。肛門腺絞りと数日間の投薬で回復します。
- 放置することで、やがて外科手術が必要になるほどの重症化が起こります。これは猫にとって大きな負担です。
- 初期段階での受診が、結果的に医療費を大幅に削減し、愛猫の苦しみも最小限に抑えます。
愛猫のサインを見逃さないために—背中を押す言葉
もし今、あなたの猫がお尻を気にしている、床にこすりつけている、あるいは肛門周りの腫れや臭いの異変に気づいているなら、今がアクションを起こす時です。
「そのうち治るだろう」という考えは、肛門嚢炎に限っては通用しません。
むしろ、その待機期間が猫を苦しめ、治療を複雑にさせてしまうのです。
明日でもいい、数日後でもいい—そう思うかもしれません。
しかし、肛門嚢炎は進行が早い病気です。
今日気づいた「小さな違和感」が、1週間後には「大きな痛み」に変わる可能性は十分にあります。
愛猫があなたに「助けて」と言葉以外で訴えかけているのです。
その訴えに応えてあげられるのは、世界中で唯一、飼い主さんだけです。
少しでも「おかしい」と思ったら、迷わず動物病院に電話してください。
獣医師の診察を受けてください。
早期対応することで、あなたの愛猫は最小限の不快感で健康を取り戻せます。
猫の健康を守ることは、飼い主さんの重要な責任です。
そして、その責任を果たすための最初の一歩は、「今すぐ行動する勇気」なのです。
今すぐできること:
愛猫のお尻周りをやさしく観察してみてください。
腫れ、赤み、臭い、行動の異変があれば、明日にでも動物病院に連絡してください。
そして予約を取ってください。
その行動が、愛猫の苦しみを何週間も短縮させることになるのです。