
過蓋咬合の治療を考えているけれど、「治すとしゃくれてしまうのではないか」という不安を持っていませんか?
この悩みは、矯正治療を検討している多くの方が抱く懸念です。
実は、適切な治療計画と専門医による診断があれば、過蓋咬合を治療することでむしろ口元やフェイスラインがバランスよく整う方向に改善することが多いとされています。
この記事では、なぜそのような不安が生まれるのか、実際にはどのような変化が起きるのか、そしてリスクを減らすポイントまで、詳しく解説していきます。
過蓋咬合の治療でしゃくれるのは、実際には稀なこと

結論から申し上げますと、過蓋咬合をきちんと治療すると、ほとんどの場合はしゃくれるのではなく、口元やフェイスラインがバランスよく整う傾向にあります。
ただし、もともとの骨格や治療方針によっては、横顔の印象が変わるため、患者さんの主観として「しゃくれた気がする」と感じることがあるというのが実情です。
重要なポイントは、本人が感じる変化と、実際の医学的な改善は異なる場合もあるということです。
なぜ「治すとしゃくれるのでは」という不安が生まれるのか
過蓋咬合治療による顎や歯の位置の変化
過蓋咬合の治療では、複数の変化が同時に起こります。
この複合的な変化が、患者さんに「しゃくれるかもしれない」という不安を与えているのです。
- 上の前歯を引っ込める、または歯茎側に圧下(押し下げる)する
- 奥歯を挺出(引き上げる)して噛み合わせの高さを調整する
- 治療に伴い、下顎が本来の正しい位置に誘導される可能性がある
特に注目すべき点は、もともと上顎や上の前歯が強く前に出ていた場合です。
そのような状態では、上の前歯が下顎を隠していることになります。
上顎と下顎の「相対的な関係」の変化
治療前と治療後で、顔貌が変わって見える理由を理解することが大切です。
治療前のイメージ:
上の前歯が強く前に突出している → 下顎がその陰に隠れて目立たない → 顔全体として「出っ歯」の印象
治療後のイメージ:
上の歯や上顎が後方・上方へ大きく移動する → 上顎の支配が弱まる → 本来の下顎の位置が相対的に目立つようになる
つまり、これは「新たにしゃくれさせている」のではなく、「本来の顎の位置が見えてきた結果」なのです。
多くの場合、これは過矯正ではなく、正常な治療経過を示しています。
患者さんの主観的な違和感
治療の過程で大きな変化を経験すると、人間の心理として違和感を感じやすくなります。
これは医学的な問題というより、心理的・適応的な側面が強いと言えます。
- 長年慣れ親しんだ顔つきから急に変わることへの戸惑い
- 周囲の反応の変化を感じて「本当に大丈夫なのか」と不安になる
- 横顔の見え方が変わることで「何か違う」と感じる
実際には、多くの場合はプラスの変化が起きている
医療側が報告している治療効果
矯正歯科の専門医がまとめている情報では、過蓋咬合治療後のフェイスラインの変化について、以下のような改善を報告しています。
- 噛み合わせが整うことで、咬筋などの筋肉の緊張が軽くなる
- エラが張って見えにくくなり、顔がシャープに見えることが多い
- 口元の突出が改善して、横顔のEライン(鼻の先端と顎の先端を結んだ線)が整う
- 顔全体のバランスが取れた印象になる
つまり、医学的なコンセンサスとしては、過蓋咬合治療は顔貌の審美的改善をもたらすということです。
「顔が大きくなる」「しゃくれる」は典型的な治療結果ではない
過蓋咬合治療後に「顔が大きくなった」「明らかにしゃくれた」と報告する患者さんは、統計的には少数派です。
むしろ、多数派は以下のような感想を述べています。
- 口元がスッキリして見える
- 横顔のバランスが良くなった気がする
- 笑顔が改善した
- 顔全体が引き締まって見える
どんな場合に「しゃくれたように見えやすい」可能性があるのか
リスク要因1:もともとの骨格が下顎前方位の場合
生まれつき下顎が前方に位置している骨格の方が過蓋咬合治療を受ける場合、相対的な変化がより大きく感じられる可能性があります。
この場合、治療前のカウンセリングで詳しい説明が特に重要になります。
リスク要因2:出っ歯(上顎前突)が強い場合
出っ歯が強い場合、過蓋咬合の治療と同時に出っ歯の改善も行われることが多くあります。
上の前歯をかなり後ろに引っ込める必要があると、相対的に下顎がより目立つようになる可能性があります。
ただし、これは「不正な治療」ではなく、正常な治療の流れです。
重要なのは、そのような変化を事前に患者さんと共有して、了承を得ることです。
リスク要因3:顎矯正手術が必要な重度症例
過蓋咬合が骨格レベルで重度の場合、外科矯正(顎矯正手術)が必要になることがあります。
- ル・フォーⅠ型骨切り術(上顎全体を移動させる手術)
- 上顎前歯部歯槽骨切り術(上顎の前歯の周辺骨を移動させる手術)
このような外科手術を伴う治療では、上顎が大きく「引っ込む」ため、相対的に下顎のボリュームが目立つようになる可能性があります。
外科矯正は全身麻酔と入院が必要な大きな手術であり、顔貌の変化も最も大きくなり得るため、術前の綿密な予測シミュレーションが極めて重要です。
具体例1:軽度から中等度の過蓋咬合の治療ケース
歯性過蓋咬合のケース
治療前の状態:
上の前歯が下の前歯を4~5mm深く覆いかぶさっている。
出っ歯はそこまで強くない。
顎の骨格は比較的正常。
治療内容:
ワイヤー矯正による歯の移動。
上の前歯を若干後ろに引き、奥歯を挺出させて噛み合わせを調整。
治療期間:約2年。
治療後の変化:
口元全体がスッキリして見える。
笑顔時に歯茎が見える量が減り、より自然な笑顔になった。
横顔も大きな変化は見られず、バランスの取れた印象に。
患者さんからは「顔が引き締まった感じがする」というコメントが多い。
このケースでは、本人が感じる変化も医学的改善も「プラス」で一致しています。
具体例2:出っ歯を伴う過蓋咬合の治療ケース
歯性過蓋咬合+上顎前突のケース
治療前の状態:
過蓋咬合がある。
加えて上の前歯が6~8mm前に出ている(出っ歯)。
顎の骨格はほぼ正常。
治療内容:
ワイヤー矯正で上の前歯を大きく後ろに引き、同時に奥歯の挺出で噛み合わせを調整。
小臼歯の抜歯を伴う場合もあります。
治療期間:約2.5年。
治療後の変化:
口元の突出が大きく改善される。
Eラインが整い、横顔がより洗練された印象に。
本人は「顔が長くなった気がする」と感じることもある。
ただし客観的には、横顔のバランスが確実に改善している。
このケースでは、治療後に「横顔が大きく変わった」と感じる方が多いですが、医学的には大きな改善の方向に向かっているのです。
具体例3:骨格性過蓋咬合で外科矯正が必要なケース
外科矯正による大きな変化
治療前の状態:
過蓋咬合が重度。
出っ歯も強い。
骨格的に上顎が過度に前に出ている(上顎前突の骨格性)。
治療内容:
ワイヤー矯正とル・フォーⅠ型骨切り術(上顎全体を上方・後方へ移動させる手術)を併用。
全身麻酔と入院が必要。
トータル治療期間:約3年。
治療後の変化:
上顎全体が大きく上方・後方へ移動する。
口元の突出が劇的に改善される。
相対的に下顎のボリュームが目立つようになる可能性がある。
このケースでは、顔貌の変化が最も大きくなり得るため、術前に3D予測シミュレーションで納得するまで確認することが極めて重要です。
「治療後にしゃくれたように見える」という訴えが出やすいケースですが、これは医学的には正常な治療結果であることがほとんどです。
治療方法別に見る、顔つきへの影響の違い
ワイヤー矯正での特徴
ワイヤー矯正は過蓋咬合治療の「標準治療」と言えます。
- 垂直方向の歯の移動(挺出・圧下)が最も得意
- 上下前歯の傾きや位置を細かくコントロールできる
- 出っ歯も同時に治療できる
- 治療期間中の位置調整が細かくできる
結果として、口元全体のバランス改善が期待しやすいという特徴があります。
マウスピース矯正での特徴
マウスピース矯正(インビザラインなど)は、軽度から中等度の過蓋咬合に対応できます。
- 「バイトランプ」という装置で下の前歯を当てて、奥歯の位置をコントロール
- ワイヤー矯正より目立たない
- 軽度な歯の移動が得意
ただし、重度や骨格性の問題が大きい場合は単独での治療は困難です。
外科矯正での特徴
骨格レベルの大きな問題がある場合は、顎矯正手術が必要になります。
- 大きな歯・顎の移動量が得られる
- 全身麻酔と入院が必要
- 顔貌の変化が最も大きくなり得る
- 術前の綿密なシミュレーションが極めて重要
「しゃくれる」リスクを減らしつつ過蓋咬合を治すためのポイント
ポイント1:横顔を含めたゴール設定が重要
治療を始める前に、横顔や正面の完成形について、具体的なゴールを医師と共有することが必須です。
- 口元がどの程度引っ込むことを希望するのか
- 下顎が目立つことについてはどう感じるのか
- 横顔のEラインについてはどの程度の改善を希望するのか
- 笑顔時の見た目についての希望
写真やシミュレーション画像を使って、医師と患者さんの「完成形のイメージ」をできるだけ一致させることが大切です。
ポイント2:セファロ分析で骨格を正確に診断
頭部X線撮影(セファロ)による分析で、以下の点を詳しく評価してもらいましょう。
- 過蓋咬合が歯性なのか骨格性なのか
- 上下顎の骨格的な前後関係
- 歯だけで治療できるのか、手術が必要なのか
- 治療後に予想される顔貌の変化
正確な診断こそが、治療のスタートラインです。
ポイント3:複数の矯正歯科でセカンドオピニオン
特に「しゃくれるのでは」という不安が強い場合は、複数の矯正歯科でコンサルテーションを受けることをお勧めします。
- 異なる治療方針の提案を比較できる
- 医師による説明の丁寧さや理解のしやすさを比較できる
- 術前のシミュレーションの充実度を比較できる
- 自分が最も納得できる医師を選べる
これは「医師を疑う」のではなく、「自分の治療に納得して進める」ための賢い選択です。
ポイント4:「バランス重視」の治療方針を明確に伝える
初回カウンセリングで、以下のようなポイントを医師に伝えましょう。
- 「出っ歯を完璧に治すより、バランスを重視してほしい」
- 「下顎が過度に目立つような治療は避けたい」
- 「横顔の自然な見た目を最優先にしてほしい」
医師に明確な希望が伝われば、それに合わせた治療計画を立てることができます。
過蓋咬合治療を受ける前に知っておきたい基本情報
治療期間の目安
過蓋咬合の治療期間は、症状の程度によって異なります。
- 軽度の過蓋咬合:1~1.5年程度
- 中等度の過蓋咬合:1.5~2年程度
- 重度の過蓋咬合:2~3年程度(場合によってはさらに延長)
これらは目安であり、個人差が大きいため、医師との相談が重要です。
子どもの場合の治療
子どもの時期に過蓋咬合を治療することのメリットは大きいです。
- 成長期の顎の成長をコントロールしながら治療できる
- 大人よりも効率的に改善できる可能性が高い
- 将来の顎関節症や歯の摩耗リスクを軽減できる
- 矯正の負担や治療期間を短縮できる可能性がある
過蓋咬合が疑われる子どもがいれば、早めに矯正歯科で診てもらうことをお勧めします。
過蓋咬合を治療しないで放置した場合のリスク
歯への影響
過蓋咬合を放置すると、歯に以下のようなダメージが蓄積されます。
- 前歯・奥歯の異常な摩耗
- 歯が欠ける、割れるリスク
- 歯がしみる(知覚過敏)
- 歯周病のリスク上昇
顎関節への影響
不正な噛み合わせは、顎関節に大きな負担をかけます。
- 顎関節症のリスク上昇
- 開口困難
- 顎の痛みやクリック音
- 頭痛や肩こりなどの関連症状
審美的な問題
見た目の問題も長期的には大きな影響を与えます。
- 出っ歯の悪化
- ガミースマイル(笑顔時に歯茎が見える)の悪化
- 見た目のコンプレックスの深刻化
これらの理由から、医学的には過蓋咬合は早期の治療が推奨されています。
まとめ:過蓋咬合治療で「しゃくれる」ことはほぼない
ここまでの説明をまとめると、以下の点が重要です。
- 過蓋咬合をきちんと治療すると、一般的には口元やフェイスラインがバランスよく整う
- 「しゃくれる」という心配は、ほとんどの場合は杞憂に終わる
- もし相対的に下顎が目立つようになったとしても、それは通常の治療経過である可能性が高い
- 治療前の綿密なカウンセリングと診断が、不安を大きく軽減する
重要なのは、医師とのコミュニケーションです。
あなたの不安や希望を医師に伝え、納得のいく治療計画を立てることが、満足のいく治療結果につながるのです。